「経済の体温計」といわれる物価が動いていない。その原因を多くの経済学者が探ってきたが、いまだに正解が定まらない。日本の物価研究の第一人者、東京大学大学院教授の渡辺努さんは、わずかな値上げすら受け入れない私たちの心理こそが「主犯」とみる。この20年間、「止まったまま」だという日本経済を動かすには何が必要なのかを聞いた。

値上げを受け入れない心理

 ――日本の物価はなぜいつまでも上がらないのでしょうか。

 「たとえば、身近な理美容サービスやクリーニング料金は、2000年ごろから価格が全く動いていません。これは消費者の根底に『1円でも余計に払いたくない』という心理があるからです」

 「企業は原材料の価格が高くなったり、円安で輸入コストが上がったりすれば、商品の価格に上乗せしたいと考えます。でも消費者にアンケートすると、いつもの店でいつもの商品を買おうとして少しでも価格が上がっていれば、『ほかの店に行く』と答える傾向が顕著です。欧米の主要国で同じ質問をすると、消費者の過半は同じ店で買い続けると答えます。日本では企業は顧客離れを恐れ、価格を据え置かざるを得ない」

 ――値上げを受け入れない心理はどう生まれたのですか。

 「1995年ごろまでの日本は、年3%ぐらいの商品の値上げは普通でした。90年代末の金融危機のころから消費が急速に冷え込んだため、企業の間で価格据え置きの動きが広がりました。あの頃はもっと価格を下げてもよかったはずですが、むしろよく下げ止まったとも評価できます。同じことは働く人の賃金にも言え、ほとんど上がらなくなりました」

 「問題はその後です。銀行の不良債権問題が次第に片付いて経済が立ち直る過程でも、価格の据え置きが続いたのです」

「1円だって上がるのもイヤだというほど、あなたは貧乏なんですか?」 渡辺さんは問いかけます。記事後半では賃金や物価を上げるには何が必要なのか聞きました。大事なことは「安いことはまずい」という認識だ、と渡辺さんは話します。

 ――なぜでしょうか。

 「経済がだいぶ回復したこと…

この記事は有料会員記事有料会員記事です。有料会員になると続きをお読みいただけます。